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東京高等裁判所 昭和55年(行コ)108号 判決

控訴人

渋谷茂

渋谷キク

渋谷京子

被控訴人

浦和税務署長

右指定代理人

小野拓美

佐藤恭一

渡邊克己

鮎沢五春

主文

本件各控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実

控訴人らは、「甲事件について、一被控訴人が昭和四八年八月二二日付をもって亡渋谷兼吉の昭和四五年度分の所得税についてした(一)控訴人渋谷茂に対し更に納付すべき所得税額を金二八万二、七〇〇円とする更正処分及び過少申告加算税金一万四、一〇〇円の賦課決定処分(二)控訴人渋谷キクに対し更に納付すべき所得税額を金二八万二、七〇〇円とする更正処分及び過少申告加算税金一万四、一〇〇円の賦課決定処分(三)控訴人渋谷京子に対し更に納付すべき所得税額を金二八万五、六〇〇円とする更正処分及び過少申告加算税金一万四、二〇〇円の賦課決定処分は、いずれもこれを取り消す。二訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。乙事件について、一被控訴人が昭和四九年一〇月一九日付をもってした(一)控訴人渋谷茂に対し更に納付すべき相続税額を金一六一万七、三〇〇円とする更正処分及び過少申告加算税金六万二、七〇〇円の賦課決定処分(二)控訴人渋谷キクに対し更に納付すべき相続税額を金二九万六、九〇〇円とする更正処分及び過少申告加算税金六、四〇〇円の賦課決定処分(三)控訴人渋谷京子に対し更に納付すべき相続税額を金九五万六、三〇〇円とする更正処分及び過少申告加算税金三万二、九〇〇円の賦課処分は、いずれもこれを取り消す。二訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は、控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上、法律上の主張及び証拠の関係は、次のように附加するほかは、原判決事実摘示のとおりであるから、ここにこれを引用する(但し、原判決四枚目表八、九行目に「裁決をしたが。」とあるのを「をした。」と改め、同五枚目裏八行目に「その更正処分においては、」とある次に「『借地権部分について所得税法施行令第六条の減価償却資産に該当しないため否認します。』と記載し、」を、同九枚目表四行目に「買換借地権という。)を」とある次に「買換建物と合せて金二、四〇〇万円で」を、同一〇枚目表三行目に「所得額(分離長期譲渡所得額)を」とある次に「別表(二)記載のとおり金四、四七九万九、五五六円と計算し、これを下廻る」をそれぞれ加え、同一一枚目裏四行目に「同3の事実を認める。」とあるのを「同3を争う。」と、同一二枚目表三行目に「同6」とあるのを「同6」と、同五行目に「同5」とあるのを「同4及び5」と、同四九枚目表一行目に「別表四」とあるのを「別表(四)」と、それぞれ改める。)。

一、当事者の主張関係

(一)控訴人らの主張

(甲事件について)

1 控訴人らは、本件(二)の土地の譲渡費用として、同土地の日本冷凍に対する借地権を合意解除するための立退料金五〇万円と本件(三)の土地を右土地の代替地として日本冷凍に借地権を設定したことに伴う財産上の損失相当額金六八八万八、〇〇〇円を主張するものであるが、右本件(二)の土地の借地権は、兼吉が昭和三八年ころ、当時その設立が予定されていた日本冷凍の発起人福田信之に賃貸したもので、日本冷凍の設立により同社が右借地権を引き受けたものである。

2 兼吉は、本件(一)の土地の譲渡収入金によりダルニー商事から、本件(五)、(六)の土地につき買換借地権を取得したが、右借地権が減価償却資産に含まれないとする所得税法の規定は、実体に合致せず、憲法に違反する。

(乙事件について)

控訴人渋谷キクは、昭和四六年一一月二四日、相続税課税価格を金一、三二九万九、〇〇〇円、相続税額を金一〇五万円と申告したところ、被控訴人は、異議の申立に対する審査請求の裁決において、相続税課税価格を金一二九万円と減額決定をしながら、相続税額を金一三四万六、九〇〇円に増額し、更に、金六、四〇〇円の過少申告加算税を賦課しているが、これは不合理であり、憲法に違反する。また、上記のとおり、相続税課税価格は、控訴人渋谷キクの申告した額以下であるから過少申告とならないにもかかわらず、被控訴人が同人に対し過少申告加算税の賦課決定処分をしたのは違法である。

(二)被控訴人の主張

(甲事件について)

1 仮に、控訴人ら主張のように、発起人福田信之が本件借地権を取得したとしても、日本冷凍の定款には右借地権を会社が譲り受ける旨の記載がないから、同社がこれを譲り受けることはできない。ちなみに、同社の貸借対照表上も、右借地権は資産として計上されていない。

2 借地権が税法上減価償却資産に含まれないことは、所得税法第二条第一項第一八号、第一九号、同法施行令第五条、第六条、資産再評価法第二〇条第一項の規定上明らかであり、また、実質的にみても、借地権は土地に類する財産権であってその価額が規則的に減少するものではないから、これを減価償却資産としなければならない合理的理由はなく、上記税法上の規定は、何ら憲法に違反するものではない。

(乙事件について)

相続税法に規定する相続税の課税の仕組は、正味の遺産総額から基礎控除等を控除した額を課税対象とし、これを法定相続人が法定相続分に応じて取得したと仮定して各法定相続人ごとに遺産を分け、これに税率を乗じて算出した税額の合計額を求め、更に、この相続税の総額を各相続人が実際に取得した財産価額の割合によって各相続人の税額を求め、法定の税額控除を差し引いた金額が、各相続人の納付すべき相続税額となるのである。したがって、課税対象となる遺産総額全体が増加すれば、相続人中のある特定の相続人の相続財産が申告額より減少しても当該特定の相続人の納付すべき相続税額は、全体の相続税額が増額されているため、その取得財産価格の割合で按分すると増加することとなるにすぎないのであって、相続税法の規定には何ら不合理な点はなく、いわんや憲法に違反するものではない。

また、右に述べたとおり、各相続人の相続税額の多寡は自己が現実に相続した財産額だけでなく、遺産総額によっても決まるという関係にあるところ、本件の場合、控訴人渋谷キクは、遺産総額について申告が過少であり、遺産総額、課税価格が増加したことにより相続税額も増加し、これに伴い、国税通則法第六五条第一項所定の過少申告加算税賦課決定処分を受けたのであり、右処分には何ら違法の点は存しない。

二  証拠関係

(一)控訴人渋谷茂は、新甲第一号証を提出し、控訴人らは、当審証人新井孝吉の証言及び当審における控訴人渋谷京子の本人尋問の結果を援用し、控訴人渋谷茂、同渋谷京子は、新乙第一号証につき原本の存在及びその成立を認める、控訴人渋谷茂は、新乙第二号証につきその成立を認めると述べた。

(二)被控訴人は、新乙第一、二号証を提出し、新甲第一号証の成立は不知と述べた。

理由

一  当裁判所も、控訴人らの本訴請求はいずれも失当として棄却すべきものと判断するが、その理由は、次のように附加、訂正するほかは、原判決理由説示のとおりであるから、ここにこれを引用する。

1  原判決一八枚目表一〇行目に「第一次更正処分等」とあるのを「第一次更正等の処分」と、同枚目裏二、三行目及び六、七行目に「第二次更正処分等」とあるのをいずれも「第二次更正等の処分」とそれぞれ改める。

2  原判決一九枚目表九行目の「証人小口守義」から同一〇行目の「同第一三、」までを「弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲事件乙第一二ないし」と改める。

3  原判決一九枚目裏九行目に「証人桾沢荘太の証言」とあるのを「弁論の全趣旨」と、同二〇枚目表二、三行目に「二二日に至り右各処分を取消し、第二次更正等の処分として本件の各処分をした事案を」とあるのを「二二日に第二次更正等の処分をするに先立って、右第一次更正等の処分を取消したことを」と、同五行目に「通知書」とあるのを「決議書」と、同六行目に「第八三二」とあるのを「書第八三二」と、同一〇行目冒頭の「に決議され、」から同枚目裏二行目の「認められるから、」までを「付で起案され、第二次更正等の処分は同年八月九日付で起案され、そして、いずれも同年八月二二日付で右取消通知書及び決議書の発送がなされたことが認められるので、それらの文書の内容から考え、第一次更正等の処分の取消の方が第二次更正等の処分よりも先に決議されていると認めるのが相当であり、」とそれぞれ改める。

4  原判決二二枚目裏一行目に「前記家屋を」とある次に「昭和四三年三月三一日限り」を、同五行目に「ころまで、」の次に「礼金五、〇〇〇円を受領して」をそれぞれ加え、同八行目に「加工」とあるのを「製造」と、同九行目に「東山田町一丁目一〇番地」とあるのを「東山田町一〇番地」とそれぞれ改め、同二三枚目表四行目に「ないこと」の次に「(なお、控訴人らは、当審において、本件(二)の土地の賃貸借契約の相手方は日本冷凍の発起人福田信之であった旨予備的に主張するが、兼吉と右福田信之間に本件(二)の土地につき賃貸借契約が締結されたことを認めるに足りる証拠は存しない)」を加え、同四行目に「日本冷凍」とあるのを「また、日本冷凍として」と改め、同二三枚目裏三行目の「日本冷凍」の次に「(又はその発起人福田信之)」を加え、同二四枚目裏二行目の「原告キク」から同五行目の「給料名下に」までを「控訴人渋谷キクはダルニー商事に、同京子は日本冷凍にそれぞれ勤務したことがない(なお、当審における控訴人渋谷京子の本人尋問の結果によると、同人が二二、三才のころ一回だけ日本冷凍に出社したが仕事の内容が合わなかったので別に仕事もしないで退社した旨の供述があるが、そうであるとしてもこれだけでは、同人が日本冷凍から次に認定するような給料の支払を受けるのが相当な勤務をしたとは到底認められない。)にもかかわらず、別表(五)記載のとおり、昭和四五年から同五一年まで、控訴人渋谷キクはダルニー商事から給料名下に金三八九万四、二三五円、同渋谷京子は日本冷凍から同様に給料名下に金二五五万四、三二〇円、」と、同末行目に「前記のとおり」とあるのを「日本冷凍又はその親会社であるダルニー商事から、前記のとおり、」と、同二六枚目表四行目に「同四九年一一月」とあるのを「同四九年一〇月」と、同枚目裏二行目に「乙事件甲第三号証の一、二」とあるのを「乙事件甲第三号証の二」と、同二七枚目表八行目に「甲事件甲第三号証の二」とあるのを「乙事件甲第三号証の二」とそれぞれ改める。

5  原判決二七枚目裏一〇行目に「収入金額」とあるのを「収入金」と、同二八枚目表三、四行目に「代金二、四〇〇万円」とあるのを「代金合計金二、四〇〇万円」と、同五、六行目に「控除すべきである」とあるのを「控除しないのは違法であり、また、憲法に違反する」と、同末行目に「含れないことが明らかであるから」とあるのを「含まれないことが明らかであり、また、これを実質的にみても、借地権は、土地の利用権としてその存続期間等につき借地法により保護されるもので、その価額が規則的に減少していくものではないから、これを減価償却資産としなければならない合理的理由はなく、したがって、借地権を買換資産として譲渡収入金額から控除しなくとも何ら違法ではなく、もとより憲法に違反するものとはいえないから」とそれぞれ改め、同二九枚目裏五行目に「指数」とある次に「(用途地域別平均)」を、同三〇枚目裏三、四行目に「一五年」とある次に「、償却期間四年」をそれぞれ加え、同六行目に「本件(五)、(六)の土地の借地権」とあるのを「買換借地権」と、同末行目に「前示甲事件乙第四〇号証に、」とあるのを「前示甲事件乙第四〇号証及び」と、同三一枚目裏九行目に「借地権」とあるのを「買換借地権」とそれぞれ改める。

6  原判決三二枚目表五、六行目に「証言によると、兼吉は買換建物を取得する際の費用として」とあるのを「証言に弁論の全趣旨を総合すると、兼吉は、買換建物を取得する際に、買換建物の所有権移転登記費用として、」と、同枚目裏六行目に「本件(二)の土地を」とあるのを「本件(二)の土地の譲渡当時同土地を」とそれぞれ改め、同三三枚目裏四行目に「所得金額であり、」とある次に「兼吉は、」を加える。

7  原判決三四枚目裏九、一〇行目の「相続税更正処分」から同末行目の「原告がこれに対し」までを「乙事件各処分をしたこと、控訴人らがこれに対しそれぞれ」と、同三六枚目裏八行目に「甲事件理由四」とあるのを「甲事件理由四3(二)」と、同三七枚目裏三、四行目に「原告本人渋谷茂尋問の結果(ただし、後記信用しない部分を除く。)」とあるのを「原審における控訴人渋谷茂の本人尋問及び当審における控訴人渋谷京子の本人尋問の各結果(但し、いずれも後記措信しない部分を除く。)」と、同六行目に「昭和四二年当時原告京子は、漸く一九才であり」とあるのを「昭和四二年一〇月一日当時、控訴人渋谷京子は、漸く一九才で、高等学校卒業後、日本火薬に勤務し、夜は短期大学に通学していたものであり」と、同三八枚目表一、二行目に「同四八年一一月一八日新築した右家屋に関し被告からの照会」とあるのを「新築した右建物に関する被控訴人からの昭和四八年一一月一五日付の照会」と、同三九枚目表四行目に「原告茂」とあるのを「控訴人渋谷茂は原審において、同渋谷京子は当審において、それぞれ」と、同枚目裏七、八行目の「原告本人渋谷茂尋問の結果」から同四〇枚目表五行目の「もとより」までを「原審における控訴人渋谷茂の本人尋問及び当審における控訴人渋谷京子の本人尋問の結果によると、控訴人渋谷京子は、昭和四二年一〇月ころ、日本火薬に勤務し、残業をして毎月手取り二万円前後の給料をとっており、右給料の全額を母に渡し、同人から毎月定期代、本代等として三、〇〇〇円位の小遣銭をもらっていたことが認められるが、本項冒頭に認定した事実関係に照らすと、右のような態容による給料の交付が、本件(四)の土地の賃料の支払としてなされたものとはにわかに首肯しがたく、むしろ控訴人渋谷京子の生活費にあてるためになされたものと認めるのが相当であり、他に」と、同枚目裏六、七行目に「原告本人渋谷茂の供述部分」とあるのを「原審における控訴人渋谷茂の本人尋問及び当審における控訴人渋谷京子の本人尋問の各結果」とそれぞれ改める。

8  原判決四一枚目表七行に「本件(五)、(六)の土地の借地権」とあるのを「買換借地権」と、同枚目裏二行に「右借地権」とあるのを「買換借地権」と、同六行目に「第四九号証の一、二」とあるのを「第四三号証の一、二」と、同一〇行目に「借地権」とあるのを「買換借地権」と、同四二枚目表二行目に「取得金額」とあるのを「買換建物及び買換借地権の合計の取得金額」とそれぞれ改める。

9  原判決四二枚目裏四行目に「右5」とあるのを「右6」と、同末行目に「乙事件甲第四号証」とあるのを「甲事件甲第四号証」とそれぞれ改め、同四三枚目表末行目に「認めることはできず、」とある次に「また、当審証人新井孝吉の証言及び弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる新甲第一号証(遺産分割協議書)によると、右6の土地は新井孝吉が借地している旨記載されているし、右6の土地を兼吉から買い受けたという当審新井孝吉の供述は,その買い受けたという土地の範囲が不明確であるうえ代金の支払状況も明らかでなく、にわかに措信しがたく、」を加える。

10  原判決四四枚目裏五行目の次に次のなお書を加える。

なお、控訴人らは、控訴人渋谷キクの相続税課税価格は審査請求の裁決において減額決定がなされたにもかかわらず相続税額が増加し、更に過少申告加算税が賦課されたのは違法であり憲法に違反すると主張するので、この点について判断するに、相続税法上、各相続人の納付すべき相続税額は、まず遺産総額から基礎控除等を控除した額をもって課税対象とし、これを法定相続人が法定相続分に応じて取得したものとして各法定相続人ごとに遺産を分け、これに税率を乗じて算出した税額の合計額を求め、更に、この相続税の総額から各相続人が実際に取得した財産価額の割合によって各相続人の税額を求め、これから法定の税額控除を差し引いた金額と定められているのであるから、右課税対象となる遺産総額全体が増加すれば、相続人中のある特定の相続人の相続財産が申告額より減少しても、当該特定の相続人の納付すべき相続税額は、全体の相続税額が増額されているためその取得財産価格の割合で按分すると、結果として、増加することとなるわけであり、かかる算出方法をとる相続税法の規定には不合理な点はなく、また、憲法に違反するものでもない。

また、控訴人らは、相続税課税価格は、控訴人渋谷キクの申告した額以下であるから過少申告とならないにもかかわらず同人に対して過少申告加算税の賦課決定処分をしたのは違法である旨主張するが、前述のとおり、各相続人の相続税額は、遺産総額と自己が現実に相続した財産額との割合により影響を受けるものであるところ、控訴人渋谷キクは、遺産総額につき申告が過少であったことから本件更正処分を受けているのであるが、その内容は、遺産総額、課税価額が増加したことにより、相続税法の規定による計算の結果、同人の相続税額が増加したものであり、これに伴い、同人に対し、国税通則法第六五条第一項所定の過少申告加算税賦課決定がなされたものであり、何ら違法の点は存しない。

二  よって、控訴人らの本訴請求をいずれも失当として棄却した原判決は相当であり、本件各控訴は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九五条、第八九条、第九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小林信次 裁判官 浦野雄幸 裁判官平田浩は、差支えのため署名、押印することができない。)

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